ももいろひとで





ももいろひとで。

ももいろひとでは海の底。

昼間はのんびりイルカの出す空気のわっかを眺めてる。

白い砂の地面にできる

不思議なしましまもようも大好き。

そんなももいろひとで、恋をした。

ももいろひとで、恋をした。

毎日毎日会いに行った。

ゆっくりゆっくり岩を登って。

晴れた日しか彼には会えなくて、でも雨の日も風の日も会いに行った。

夜しか彼には会えなくて、それでイルカのわっかとしましまもようをながめながら、いつも思ってた。

「早く夜にならないかな」

ももいろひとでの恋した相手。

いつも優しく見つめてくれる。

何にも言わないけれど、言葉も交わせないけれど。

「彼のそばにいけたらなあ」

ももいろひとではいつもそう思ってた。



ある日、大きなあらしが来た。

「海の中なら安全だけど外には行っちゃいけないよ」

物知りの、うみへびおじさんはそう言ったけど。

ももいろひとで、どうしても彼に会いたかった。

ももいろひとで、うみへびおじさんの言うこともきかずに岩を登る。

海の外の風は冷たくて、強くて、びゅうびゅうももいろひとでをはがそうとした。

いじわるな風に負けないようにももいろひとでがんばった。

途中で人魚の女の子が、人間の乗ってる船のところに必死な顔で泳いでくのが見えた。

「頑張ってね、人魚さん」

ももいろひとで、そっとお祈りした。

風はますます強くなる。

雨もびしびしももいろひとでをたたく。

ももいろひとで、痛かった。

でもそれよりも彼に会いたかった。

会えないかもしれないけど、どうしても会いたかった。

どれだけ経ったか、ももいろひとで、まだ一生けんめいはりついていた。

風が突然いじわるするのをやめた。

雨もももいろひとでたたかなくなった。

まっくろな雲が、少しずつ少しずつ逃げてった。

そして彼があらわれた。

ももいろひとで、笑った。

うれしくて笑った。

「ああ、会いたかった、おつきさま」

おつきさま、ももいろひとでをみた。

そして笑った。

「わたしも、会いたかった」

おつきさま、ほんとはももいろひとでを知ってた。

ほんとはほんとは、いつ話そうかいつ話そうかと思ってた。

「あなたのとなりに行きたいな」

ももいろひとで、話せたのが嬉しくてそう言った。

言ってから、少し恥かしくて、もっとももいろになった。

「おいで、たくさんお話しよう、大好きなももいろひとで」

ももいろひとで、空に浮いた。

そうしてぴかぴか光りだした。

うみへびのおじさんも、王子さまかかえた人魚の女の子もももいろひとでを見て手をふった。

海とはなれるのはさみしかったけど、ももいろひとで、うれしかった。

「これでずっと一緒」





ももいろひとで、今日も空にいる。

大好きなおつきさまのとなりで、お話しながらももいろにぴかぴか光ってる。







おわり。


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高校のとき授業中に思いついたお話。
この話で言えることは人魚がかなりの怪力だってことです。