――異次元ヲ回遊青ク深イ夜セカイヲカエヨウソコカラナニガミエル?――







全てが静かな夜になりそうでした。

僕はパソコンルゥムから出て、銀色の自転車に跨り、宙を見上げました。

先程迄鮮烈とも云える深いあをのグラデエションで染め抜かれていたのに、深さだけを残し、空は静かに在ったのです。

からからと車輪の回る音がします。僕は自転車を漕いでいるのです。

名も知らぬ木の枝の陰細工。埃を被った残雪。

月は音も無く浮いていて、雲など無いのに、澄み切っているのに、周りに薄虹色の円が出来ているのです。

視線を戻せば、橙の外灯にも同じ円が出来ているのです。

川べりに出ました。遠く南に街のネオン。近い南には今日までの特大クリスマスツリィ。宵の明星、薄いオリオン、アルプスの稜線、楡の木、吃驚したような目のまま動けない僕の顔、何時かの忘れられた約束、元気の無い犬、強い風。

ごたまぜに、なっていると云うのに。

そんな僕の混沌すらも透かしてしまう程の群青。

嗚呼、君の音は今いずこ。

音など、この錆びた自転車の立てる其れだけで充分なのだと諭されているような気がして、僕は唄を歌えないのです。

君の顔すら、忘れてしまいそうなのです。

かん、かん、という足音が耳障りです。僕は自転車を降りて階段を上っているのです。塒に着いたのです。

鍵を開けて、中に入って、電気を点けたけれども、薄虹色の円は出来ませんでした。

小汚い部屋の中、僕は布団の上に膝を立てて座り込み、じっとしておりました。

ほんの数分の道程の間に、表情を全てあの中に、あの群青と月の中に置いてきてしまった様なのです。

其の位、静かで、澄んでいたのです。

僕は蹲ったまま、何か考えようとしました。

明日の事を、明後日の事を。

優しく微笑んで僕を許した友人の事を。

遠く北陸の地で晩御飯の支度をしているだろう祖母の事を。

嫌われて疎まれているだろう、仕方ないのに、其れでも友人だと掠れ声で叫びたい君の事を。

少々いかれた思考を持っている、ポンコツな体の自分の事を。

しかし、考えられないのです。想えないのです。

どうして。

こんなにも叫びを渇望する何かが眠っているのに。

全てあの群青と月の中に置いてきてしまった様なのです。

不意に目の前が滲んで、泪が一滴ぽつりと落ちました。

其の色と同じ位、静かで、澄んでいたのです。






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帰り道に出来上がったようなもの。
タイトルは最初無かったのですが、どうしてもアジカンのこのタイトルが自分の中でピッタリきたので使わせていただきました。


Inspired byアジアンカンフージェネレーション「或る街の群青」